亀がアライグマに襲われて大怪我をした話

年始にも書いた、亀の受難の話。インターネット上をざっと検索した限りでは、生還した亀の詳しめな話はあまり見つけられなかったので、覚えている範囲で、ここに記録しておく。いろんなケースがあるだろうけど、もし新たに災難に遭ってしまった亀がいて、その飼い主さんか誰かがここを見つけた時、こんな例もあるんだなと、ささやかながら何かの助けになれたらいいなと思う。

ただしあくまでうちの亀たちの場合、であることは念を押しておきたい。性格も体力も個体差結構あると思う。治療費も一応ざっくり記録しておくがケースバイケースなので、あくまでうちの場合であり、参考程度に、ということで。

目次

亀たちのプロフィール

当該亀たちは 2匹。お祭りの夜店の亀すくいのモナカに、うっかりすくい取られてしまったミドリガメ(ミシシッピアカミミガメ)たちである。生まれてから今年でおそらく 35年前後のメスで、甲羅のサイズは 20cm を超えている。おっきなメロンだなー、くらいのサイズ感。

デカい方はおおらかで要領が良くてすばしっこく、チビの方は割と神経質で臆病な慎重派……で、なんとなくちょっと鈍臭い。どちらも好奇心と探究心は旺盛。隙あらばお出かけ(脱走)するよ!……という実に亀らしい心構えで生きている、研究熱心な奴らである。

ずっと外飼いだったのが、アライグマによる襲撃をきっかけに、家の中に引っ越すことに。
ちなみに今は 2匹とも怪我は治って、もう冬眠しても大丈夫、と獣医さんからお墨付きを頂いたので、ひとまず安心して欲しい。とりあえず今季は冬眠せずに過ごしており、毎日元気に食っちゃ寝している。

事件

事の発端は 2022年4月。冬眠からまだ完全に醒め切ってはいない状態の亀たちが、雨の降る深夜、庭に侵入してきたアライグマに襲われた。

当時はプラスチックの衣装ケースを水槽代わりにしていて、冬眠中はフタの上から遮光と若干の保温の為によしずを掛けて、紐できっちり縛っていた。4月も半ばを過ぎて、冬眠から起き出した亀たちがそろそろ少しずつ食べ始めるかなー、という時季。亀たちの様子を見て、たまたまその夜だけ、紐をかけていなかった。油断していた。
アライグマはその隙を突いて、フタやら諸々をどかして地面に落とし、中にいた亀の脚を咥えて引きずり出したものらしかった。

朝、デカは庭の物置の下で見つかった。彼女にとっては、何かあるといつも逃げ込むシェルターのような場所。その日は、覗き込んで声を掛けても奥の方に縮こまって、今までに見たことのないような怖い顔をして、今までに見たことがないくらい大きく口を開けて、必死の形相でシャーシャー言って威嚇していたという。今まで生きてきた中で間違いなくダントツに怖い体験をさせてしまった。

チビは、我が家の庭にはいなかった。隣家の敷地で血まみれで縮こまっているところを発見されて、お宅のカメちゃんじゃない?と連れてきていただいた。お隣さんが親切な方でホントに良かったと思う。チビは見るからに大怪我で、その日の午前中に動物病院へ連れて行くことになる。

アライグマについて

後から近所で聞いた目撃情報や時季からして、おそらくアライグマは少なくとも 2匹――子育て中の母親とその子供か何かであろうと推測される。

実は近所ではここ数年目撃情報が増えてきていたらしく、怪しい古い空き家もあることだし、ごく近所に棲み着いていたものと考えられる。
聞けば、うちの亀たちが襲われる前後の割と短い間に、家庭菜園の作物やら庭の金魚やらメダカやらが喰い荒らされたり、盆栽を壊されたり、敷地内に立派な落とし物をされたりと、被害が近所で多発していたことが分かった。またある人は、夜中に 2匹連れ立って庭を荒らしているところを目撃したとか。

そういえば事件前から、朝方庭に出ると何とも言えない濃い獣臭が漂っている、というようなことが何度かあったのも、今にして思えば奴らの痕跡だったのだろう。ネコとは違う、ちょっと嗅いだことのない、でもおそらく動物由来であろうと確信を持って言えるような、何とも言えないケモノ臭。さらに庭の鉢植えを転がされて鉢が割れたりということも、後から考えてみれば確かにあった。いろいろ納得の感。ボーっと生きてんじゃねーよ!どころではない。ボーっとし過ぎであった。

アライグマは農業被害も深刻なので、近頃は自治体が駆除に予算をつけるようになってきている。今までは「自分で対処してね」という姿勢だった自治体も、もしかしたら「今まさにやろうと思ってたとこ!」という段階にあるかもしれないし、「自治体として助けるのは農家だけ」の態勢のところも、「畑と住宅が近いんだから結局のところ住宅街も対策しないと農家の被害は減らないよね」とそろそろ気付いてくれている頃かもしれない。いずれにしても、一応念の為、相談してみるのは有効かも。確実にアライグマが来ていると分かる客観的証拠がないと動けない、みたいなのもあるかもしれないが、まずはとりあえず被害報告だけでも。

外来生物として駆除対象とはいっても、一応野生動物なので鳥獣保護法に守られてもいて、自治体――東京の場合は都知事――などの許可無く殺傷すると罰せられる……筈。なので狩猟免許も持っていない素人が迂闊に手出しはできないし、奴らはびっくりするほど器用な上にしつこいので、ニオイや音や光等々でやんわりお引き取り願うことはできないらしい。実際木酢をしこたま撒いたりはしてみたもののその後も何度も来ている痕跡があった。あいつらヒト様の庭をトイレ代わりにしてたんだぜ!ムカつくぅ~!猫なら大人しく引き下がるのに!

(ちなみに年始にも書いたことだが、アライグマは回虫やら狂犬病やらマダニやら、人間にも致命的な害のあるものをいろいろ持っている可能性があるので、素手での接触は厳禁。最近はエキノコックスにも注意が必要になってきているという話もあるし、対峙する時はとにかく距離を取るなり完全防備で臨むなり、やっぱり迂闊に手出しできない相手。)

……というわけで、自治体に連絡の上、近所に箱罠を掛けてもらい、とりあえず 1匹は捕獲されたと聞いた。業者の方によると、体格からしてその個体がおそらく母親だろうとのことで、分かる範囲ではそれ以降我が家の庭には来ていない様子。ただしばらくは臭いが残っていたのかトラウマか、亀が庭の一角を怖がるようになったので、ホントに来ていないのかどうかは分からない。全頭捕獲したとも、塒が判明したとも聞いていないし。
※追記:2023/5/22 夜にチビっ子 2 匹が敷地内に現れた。今年もまた繁殖しているらしい。クルル、クルル、と鳴きながらウロウロ。少し離れたところからも声が聞こえたので、最低 3 匹はいることになる。きちんと塒を探して全頭捕獲しないと、いくらでも殖えるよね……

まぁアライグマの方もね、生きるのに必死なのは分かるんだ。そもそも日本にはいなかったのに勝手に人間の都合で連れてきて野外にリリースしちゃった人間が全て悪い。ミシシッピアカミミガメも日本では終生管理下においてお世話するのは当たり前だし、野生化したらアライグマと同じように厄介者。でもさ、個人的な感情ではやっぱり長年同居している生き物の方が大切なのよ。もう一生アライグマを素直に可愛いとは思えないと思う。コミカルな動きをする奴らだけど純粋に面白いとは思えないと思う。直接利害関係のない個体でも、どこかひんやりした視線になってしまうと思うんだ。……アライグマについては以上。

亀たちのケガの状態と治療について

デカ

デカは右前足の甲側から爪の根本にざっくり傷を負っていた。

初めは軽い傷に見えたのでとりあえずいつも通り水に入れて様子を見ていたのだが、しばらくしてから足が腫れているのに気付いた。その後数日は腫れが引かず、痛いのか違和感があるのか、足を使うのを自分で控えているような様子だった。

そのうち傷の辺りの皮膚と爪が一緒にベロンと剥がれるように浮いて、しばらくパカパカしていた。一応抗生物質を含む軟膏を傷に塗っていたら腫れは引いたものの、2ヶ月程で第3指と第4指の爪ごと脱落してしまった。パカパカしていた部分を、庭を歩き回っている時に何処かに引っ掛けてきたらしい。さらに第2指の爪も後から浮いてきて、結局8月半ば頃には爪を3本失ってしまった。

ただ数ヶ月後、第2指の爪は少し歪ながら生えてきている。引っ掛かりが良くなって便利になったのか、両前足を金網にかけて立ち上がるようになった。誠に力強くて頼もしいのだがデカよ、頼むからお出かけは控えてくれたまえよ……。

チビ

ケガの状態

チビは命に関わる状態だった。左前脚の先と右後ろ脚を喰いちぎられていて、後ろ脚は骨と皮を残して根本からごっそり肉をこそげ取られたような状態だったし、前脚の方も骨が飛び出していた。

治療 その1 : 亀に詳しくない獣医さん

傷が酷いのでとにかく専門家の手を借りる必要があると思って近所の動物病院に電話して事情を話したら診てくれるということだったので、午前中のうちに連れて行った。ただ、ここの獣医さんは亀には詳しくなかったようで、後で別の病院にかかることになる。

この日の診察では傷の洗浄以外特にこれと言って手を施すことはなく、亀の手術はできないことはないが諸事情で麻酔が難しい上にチビは高齢なので手術中に死んでしまうリスクが高くおすすめはしない、といった説明を受け、とりあえず判断を保留して一旦連れ帰った。この時は、(後にかかった別の獣医さんとは真逆なのだが)傷が塞がるまで水には入れないように、との指示と、餌に混ぜて与えるように、と粉状の抗生物質を処方されたのみであった。

水棲亀なのに……?と戸惑いつつ、とりあえずいつもの配合飼料を水でふやかして薬を塗し、箸でつまんでチビの口元に持っていく、というような給餌を1週間続けた。やはりほとんど食べないし、水も口の周りにシリンジや洗瓶を使って垂らしたりしたもののうまく飲めてはいなかったと思う。おまけに何やかやとうるさく世話を焼いたせいで、大怪我で元気ないにも関わらずめちゃくちゃ怒られた。(亀に。)
最終的に水は、ジャムの入っていた大きめの空き瓶をよく洗ってぬるま湯を入れて、口元に近づけつつ頭の後ろから洗瓶でぬるま湯を少し掛けてやったら、自分で水に顔を突っ込んでいた。可哀想にきっと喉が渇いていたんだろうと思う。

ちなみにこの段階で診察にかかった費用はざっとこんな感じ。(抜き書き)

  • 傷の洗浄 1000円
  • 化膿止めの注射 1500円
  • 内用薬(粉薬) 1400円

治療 その2 : 亀に詳しい獣医さん

様子を見ていてあまりにあんまりなので、もっと亀に詳しい医者に診てもらうべきだと、改めて専門医を探した。幸い電車で 1時間以内で行ける範囲に 1か所だけあった。これが本当に幸運だったと思う。朝電話して、午後の診療にねじ込んでもらった。

結果、即入院。

翌日、麻酔をかけた上で状態の悪くなった傷口をきれいにしたり飛び出した骨をカットしたり、といった手術もちゃんとしていただけた。この時も、体力がもたなくて死んでしまうリスクはある、との説明は受けたが、亀自身の生命力にかけてできる限りのことはやってみましょう、と言っていただけたのでお願いした。最初から 亀の 専門医を探すべきだったのだ。

こちらの獣医さんに見せた時、後ろ脚の傷口は蛆が湧いてきていたらしい。聞けば、水棲亀はある程度出血が治まったら水に入れるべきなのだとか。水に入っていれば蛆が湧くこともなかっただろう、と。水の中で生きているものを水に入れないでどうすんだ、とおっしゃっていた。(診療に立ち会った家族の話から察するに、面倒見が良くて豪放磊落な印象の頼もしい獣医さんである。)

手術費用その他はだいたいこんな感じ。(抜き書き)

  • 入院費 1500円/日
  • 抗生剤の注射 1500円/回
  • 栄養剤の点滴 1500円
  • 全身麻酔 10000円
  • 手術 60000円

手術後は1週間ほどそのまま入院して療養した後、退院する時には抗生剤入りの軟膏を処方していただいた。それを1日1回傷口に塗るだけで、他には特にこれといったお世話はなし。真夏以外は水温を下げないためにヒーターを使うようになったものの、普通にいつも通り水に入れるし、毎日の水替え中の日向ぼっこもいつも通り。ただ泥汚れやなんかは傷に詰まると雑菌が怖いので、傷が完全に塞がるまでは一応庭に放牧はせずプラスチック容器の中で、という感じ。

そうして毎日をそれなりに穏やかに生きてきて、7月頭には卵も産んで、傷は順調に快復し、10月半ば頃には、冬眠しても大丈夫でしょう、とのお墨付きを頂くまでに。おまけにちょっと体重も増えていたりして。白かった傷口の周りも徐々に本来の体表の色を取り戻して、今ではほとんど目立たない。驚異的な生命力。

環境の変化

人間でもそうだと思うのだけど、怪我の快復で一番重要なのは本人の回復力で、周りの者にできることと言ったらその回復力の後方支援だけなのである。快復の妨げになる環境はできるだけ排除し、快復の助けになるものが必要ならそれをそっと差し出す。

というわけで、我が家の亀たちもひとまず当面は今までとは違う環境で生活することになった。

傷の快復のためには代謝を高めに維持するのが理想で、特に変温動物である亀にとっては環境の温度を下げないように維持する必要があった。亀の種類によっても差はあるだろうがアカミミは水棲の亀なので、獣医さんのアドバイスも聞いて、水中にヒーターを設置することにした。

アライグマは事件後も度々庭に来ていたようで亀が怖がっていたし、ヒーターも屋内で使う前提で設計されているものなので、必然的に亀たちは水槽ごと家の中に引っ越すことに。水槽も、ヒーターを使う都合上プラスチック製はやめて、ガラス製のものを新設した。(大亀サイズのガラス水槽はなかなかに高価であった……)ヒーターを入れるなら水流も必要なので、ひとまず投げ込み式のフィルタも設置。そんなわけで、外飼い時代とは環境がかなり変わった。

外では温度管理もしていなかったし冬には冬眠していたし、換水の時に飼育水が多少こぼれてもそのうち乾くでしょう、というざっくりとしたお世話だったのだが、室内となるといろいろ勝手が違う。しかも市販品に頼ろうにも市販の亀グッズはほぼ小亀用だし、うちの大亀たちのスケールの参考資料はほとんど見当たらなくて、環境構築は手探り状態だった。理想を言えばキリがないけどできることとできないことがあるし、いまだにいろいろ調べたり試したりしているのだけど、その話はまた別の機会に。

家族の亀を守るためにできること

最後に、後悔と反省を未来の何かに活かすべく、やっておけば良かったことを挙げてみる。

近隣の害獣情報は真面目に収集しておくべし
アライグマが堂々と活動するのは夜なので、亀の飼い主自身は気配すら感じていない場合も多いかもしれない。が、目撃情報は見間違いかも、とか思うべからず。猫も狸もいるならば、アライグマがいても何も不思議はない。特に最近野良猫や外猫が減ったような気がする、と感じたら、アライグマによって駆逐されている可能性もあるかもしれない。奴らはチャンスが来るのを虎視眈々と狙っている。一旦餌場と認識されたらしつこく狙われると心得ておくべき。
亀水槽には金網をかぶせてがっちり固定すべし
外飼いならば、亀の居場所は金網で上まできちんと囲んで固定するなど鉄壁のガードをしておくべき。アライグマはかなり手先が器用な上に案外大きくて力も強いので、ふんわりとした防御では無意味。襲われてからでは遅いので、油断は禁物。
動物病院を頼る時は獣医師が亀に詳しいかどうかを確認すべし
獣医師ならばどんな動物もそれなりに診られるだろうなどと思ってはいけない。亀を診られる獣医さんは希少。しかも亀を診られないのに正直にそうは言ってくれなかったり、生き物の種類によって扱いに差がある獣医師もいる。頼れる獣医さんがどこにいるかを日頃から把握しておくのは大事なことだと思った。獣医さんを信頼できるかどうか判断するために、飼っている亀のことを自分自身でもよく勉強するのも大切。

アライグマ発生地域の亀たちが、怖い思いをすること無く健やかに生きられることを願う。

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